#12 行先
リアとリンが目を覚ましたときには、ローザは姿を消していた。
ローザが何を考え、何を決意し、何処へ消えてしまったのか。これから町を出て行く2人には知る由もなかった。
「気持ちのいい朝ね」
「気分的には曇りだけどね」
人の歩いていない静かな町で、2人の足音が響いている。
「本当に居ると思う?」
「あの様子なら嘘って事はないでしょ。前金はちゃんともらってるし。まあ、居なくても問題は無いけれど」
育ちの良さそうな令嬢の顔が思い浮かぶ。
「中々面白そうな人間じゃない? からかいがいが有りそうだし」
「リンは人をからかいがいがあるか、ないかで判断してるわけ?」
「そうよ。悪い?」
当たり前といった様子で応えるリンに、リアは言葉が詰まる。
「……悪いか悪くないで言えば、悪いんじゃないかな?」
リンは応えなど不要というように、足を速める。
リアは少し前を歩くリンを見て、ふと気がつく。リアの右側ばかりを歩いていたリンは、リアの左側を歩いている。リアがリンに追いついてリンの顔を見ていると、リンはリアをちらりと見てから顔を背けた。
自分勝手で自分本位なリンだが、リンなりにリアの事を気遣ってくれていた。励ましてくれてた。リアはそれが嬉しくて、気がつけなかった自分が情け無く思えた。
「ありがとう」
「何か言った?」
「ううん。寄り道したけれど、今度こそアヴィスに向かうよって」
「知識の国、アヴィスね。頭でっかちばっかりの国よね。あー、やだやだ」
「偏見は良くないよ」
「偏見結構。私は私の思う通りの想像しかできないもの」
リアはリンの言い草にくすりと笑う。
「ねえ、もしかして、あれが例の?」
町の入り口に馬車が止まっていた。質素だが品がよく、2頭の馬を繋いだ馬車。
その隣には2人に向かって、手を千切れんばかりに振るドレス姿の令嬢。
「あれは、こっそり出かけるって感じではないわね」
リアがため息をつき、リンは可笑しそうに笑った。