#11 祈り
リアは廃墟に佇んでいた。
かつてリアの幸せがあり、今は何もない場所。リアは服が汚れるのも構わず、黒い瓦礫の上に座って星を眺める。
数多の星がリアを見下ろすが、彼らは何も伝えてはこない。ただ、綺麗に光っているだけだった。
「こんなところに居たのね」
足音を殺しながら近づいてきたリンが、リアの隣に腰掛ける。
「ローザはどうしてる?」
「泣いた後、疲れて寝ちゃったわ」
「そう」
リアはばつの悪そうな表情をしてから、力なく笑った。
「あのときのリアとそっくりね。喚き散らして、泣くだけ泣いて」
「ご迷惑おかけました」
「本当にね。私が居なかったら、今のリアはいないわよ? ちゃんと、感謝してよね」
何時ものリンの様子に安心して、リアはふっと笑った。
「ローザはこれからどうするのかな?」
「分からないわ。全うな道に戻るかもしれないし、ロウと同じ道を辿るかもしれない。リア、貴方ならローザの気持ちが少しは分かるんじゃない?」
リアは沈黙で応えた。その問いの応えは予測であって、リアの望む未来でしかない。
「全うな道に戻るなんて、楽観的な考え方はしない事ね。他人の言葉で全てが解決するなら、争いなんて起きないのだから。リアにできる事は、自分が関わった事を出来るだけ覚えておく事だけよ」
そうなのかもしれないとリアは思った。リアが関わった全ての出来事の終わりを見る事はリアには出来ない、ならば覚えていようと思う。幸せな未来が待っていることを祈りながら、覚えている事にしよう。
2人して黙して、星を眺める。
リアはふと流れ星を待って夜を過ごした、3年前の自分を思った。この幸せがずっと続きますように。その願いを叶える事はもう出来ない。
「貴方をあの店に連れいく直前に、私はロウと会ったわ。突然話しかけれたから、首にナイフ突きつけてやったんだけど、少しも驚かなかった。それで興味がわいて、話を聞いてみたのよ」
リアは、これからはリンを一人で行動させるのはやめようと改めて思った。
「最初は暴動に参加しないかと言われたわ。面白そうじゃないから断ったら、やっぱりって言ってロウは笑ってたわ。そして、ローザの事を頼めないかって」
「ローザを引き受ける事の何が面白そうだったの?」
「さあ、何かしらね? ただ、ちょっと関わってみたいと思ったのよ。何故かしらね」
リンはしきりに首をかしげている。
「地下室に行ったときに上を気にしていたのは?」
「それはあの店が見張られてたから。その話をロウにしたけれど、ロウは気がついていたみたいね」
「目を付けられるような行動は慎むように言ったのに……」
リンは跳ね上がるようにして、瓦礫から立ち上がった。
「自分のことは、どんな事があっても自分で決めなさい」
リンがリアの口調を真似る。
「少なくとも私は、自分がしたいようにさせてもらうわ」
リンが足音もなく去っていく。
リアは狐につままれたような表情をしてから、慌ててリンの後を追いかけた。
リアには、リンの身勝手さが何故か微笑ましく思えた。