Story

狐と猫

木漏れ日が揺れる森の木陰で、狐の尾を枕にして猫が眠っていた。その寝顔は幸せそうで、時折思い出したように二又の尾を揺らしている。

狐は猫の寝顔を優しく見守りながら、森の声に耳をすます。

小鳥のさえずりが聞こえてくると、その度に猫の耳がぴくんと動き、狐の尾が微かに揺れた。猫は狐の尾が揺れる度に、くすぐったそうに体を丸めると、気持ちよさそうに狐の尾に顔を埋める。

時間が緩やかなこの場所は、今日も平和だった。

狐は重なり合った葉の間から見える空を眺めながら、生まれてからの歳月を思い出していた。数字が得意な狐には自分がどの程度生きているのか確りと記憶していたし、猫と出合った時間までも口にする事が出来た。

今日の日付から数えると、猫とは長いこと連れ添っていることになる。

狐は猫と過ごした日々を思い出しながら、ふと時間というものに気をかけていることに気がついた。永遠とも思える生を受けていてなお、時間が気になるのはどうしてだろうか。

それは、最近になって入り込んできた人間のせいだろう。人間は短い生を受け、生き急ぐ。そんな存在が近くにいるから、落ち着かないし、昔を思い出してしまう。

思案していた内容のせいか、狐は落ち着かなくなり、尾を大きく動かした。

猫は狐の尾が大きく動いたことで目が覚め、眠気眼を擦りながら狐を見上げた。

狐がなんでもないと、頭を撫でると、猫はくすぐったそうに目を細めながら満面の笑みを見せた。それを見るだけで狐の心が温かくなった。猫さえいれば、狐はそれで幸せだと改めて気がついた。守るべきは猫といる時であり、穏やかな心休まる時なのだ。

猫が伸びをしているのを見て、狐は立ち上がった。もうそろそろ主が起きてくる時間だろう。また変な事に首を突っ込まなければいいがと狐は心配したが、主の行動は予測を大幅に超えているので、何をしでかすか想像もつかない。狐は猫に悟られないように小さな溜息をつき、前を歩きながら振り返った猫に微笑みかけた。

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copyright 紙月 狐 [ namegh@hotmail.com ]