猫と夜鳥
猫は暇そうな表情で切り株に腰掛けながら、欠伸をした。
狐が忙しそうにしていたので、構ってもらえず、猫は森に遊びに来たのだった。
猫は森に生えてる植物の観察や蝶々を追いかけたりして暇を潰していたのだが、それに飽きてしまい、今では切り株の上で眠気に誘われている。
切り株の上にはぽっかりと丸い空が浮かんでおり、丸い空からは陽が地上に降り注いでいる。暖かな陽の射す切り株は猫にとっての昼寝ポイントの一つだった。
猫はいつもなら狐の尾を枕代わりにして寝ているのだが、恰好の昼寝日和に限って狐はいない。
つまらなそうに二又の尾を揺らしながら仰ぎ見た空を小さな雲が流れていった。猫は首を動かしながら雲の動きを追って、雲が視界から消えると、また欠伸を漏らした。
次に欠伸したら寝てしまうかと猫が考えた時、空の向こうから夜鳥のさえずりが聞こえてきた。
猫は耳をぴくぴく動かしながら、何処からそのさえずりが聞こえてくるのかを探ったが、わからなかった。
さえずりはしばらく続き、猫はその声に耳を澄ました。
そのうち猫は夜鳥のさえずりを追うように歌いだした。最初は鼻歌程度のものだったが、途中からさえずりに負けずと大きな声で。
猫と夜鳥の合唱は続いた。猫は段々と楽しくなってきて、二又の尾を忙しなく揺らす。
そのうち夜鳥のさえずりは聞こえなくなったが猫は歌い続けた。
猫が歌い続けていると、丸い空の端から夜鳥が顔を出した。夜鳥は歌う猫を物珍しそうに眺めていたが、猫が気持ちよさそうに歌っているのを見て、歌いたくなった。
再び猫と夜鳥の合唱が始まった。その合唱の内容は全く意味不明だったが、猫と夜鳥は楽しそうに歌う。
猫と夜鳥の合唱は突然と終わりを告げた。どちらかが意図的に止めたのではなく、ごく自然に。猫と夜鳥はどちらも満足そうに笑った。
夜鳥は丸い空の縁をくるくると飛び回ると、猫に向かって手を振って去っていった。
猫は夜鳥が空高く舞い上がり、丸い空から見えなくなるまで手を振ってから、切り株から立ち上がった。
猫は歩きながら、重なった葉の間から見える空を見上げた。
また一緒に歌えたらいいなと猫は思った。