Story

花の妖怪と蟲

花の妖怪が花畑の上を遊泳していると蟲がやってきた。

蟲は花畑を眺めて、花の咲き具合を確認してから、花の妖怪へ近寄った。

蟲は花の妖怪に挨拶をすると、花畑の花を褒めた。

花の妖怪は蟲の世辞を適当にあしらうと、蟲に向き直った。

この時期、花の生息について蟲が訪ねて来るの事は常であり、花と蟲の相互関係を築く上で大切なことだった。

花の妖怪は花の咲き具合と花の生息している場所を語った。大まかな場所と孤立している花の場所、それと花の咲く時期について話すと、蟲は真剣な顔をしてその話に相づちを打った。

花の妖怪が話し終えると、蟲はいくつか質問をし、それに花の妖怪が応えた。蟲は質問を終えると、頭の中で手に入れたばかりの情報を反芻しながら幾度か頷いた。

今度は花の妖怪が蟲に質問をした。蟲は花の妖怪の質問に応え、今年は気候が穏やかだったので、元気な子供が沢山生まれたことを語った。

蟲が事細かに虫の話をするので、花の妖怪は眉をひそめて、その話を遮った。共存しているとはいえ、虫が蠢いている様子を想像するのは、生理的に受け付けなかった。

蟲は話を遮られたことに不満の表情を示したが、花の妖怪の機嫌を損ねた事を感じ取って押し黙った。昔は蟲の力は強いものだったが、今や衰えつつある。花に対する虫の役割は大きなものだったが、蟲と花の妖怪の力関係は花の妖怪へ傾いている。蟲はどうにかして挽回する方法を探していたが、現在は実りのある話は無かった。

蟲が考え込んでいるようだったので、花の妖怪は眼下の花畑を見下ろした。花の周りには常に虫が飛び回っており、その様子は自然の有りのままの風景だった。

花の妖怪は蟲の頭を撫でた。蟲は驚いたように顔を上げて、花の妖怪の表情を窺っていたが、花の妖怪はかまわずに頭を撫で続けた。

花の妖怪は闇雲に動いても空回りするだけだと助言をしようかとも考えたが、蟲にとっては大きなお世話だろう。

花の妖怪は黙って撫でられ続ける蟲の様子を窺いつつ、蟲の動向がこれから面白くなりそうだと微笑んだ。

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copyright 紙月 狐 [ namegh@hotmail.com ]