Story

庭師と花の妖怪

目の前に一本の向日葵が咲いていた。

陽に向かって伸びるその姿は雄雄しく、どこか誇らしげに見える。

庭師は向日葵に近づくとその姿を眺めた。向日葵の背丈は庭師と同程度であり、目の前に立つと丁度花を見ることができた。向日葵は色、形共に美しく、ぴんと伸びた背筋が特徴的だった。

庭師がお嬢様から言い付かったお使いの事も忘れて眺めていると、向日葵の向こう側から花の妖怪が現れた。花の妖怪は珍しいものでも眺めるように庭師を観察してから、向日葵に近づいてそっと花びらを撫でた。

花の妖怪は庭師に向かって、この向日葵が気になるかと訊ねた。

庭師はちらりと花の妖怪を見てから、どこか寂しそうだと呟いた。

花の妖怪は目を瞑ると語り出した。

この向日葵は鳥によって運ばれてきた。運ばれてきた場所が適切な場所ではなく、地面が固く育ち辛い場所だった。花の妖怪は向日葵に移動することを勧めたが、向日葵は頑として動こうとしなかった。ここが自分の場所だと言って、今こうして見事な花を咲かせている。

そうかとだけ呟くと、庭師は向日葵を見つめた。庭師には向日葵のことは分からなかったが、辛い状況を乗り越えて美しい花を咲かせた向日葵に労いの言葉をかけた。

庭師が向日葵の葉を撫でると、向日葵がかすかに反応を示した気がした花の妖怪は向日葵から一歩離れて、貴方達お似合いねと言った。

庭師は花の妖怪の言葉を吟味してみたが、言葉の意味を理解する事は出来なかった。

庭師はもうしばらく向日葵を眺めてから、また会いに来ると一言残すと向日葵から離れた。

花の妖怪は向日葵から離れて行く庭師に声をかけた。

花の妖精は向日葵の言葉を伝えた。もし枯れてしまったら、貴方に種を託したい。

庭師は立ち止まると向日葵を振り返った。

その時は迎えにくる。そう言葉を残して庭師はお嬢様のお使いへと出かけて行った。

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copyright 紙月 狐 [ namegh@hotmail.com ]