Story

#10 生活改善

明くる日の昼、リアは起きると共に眠気眼を擦りながら一階へ降りた。

朝食のいい香りが階段にまで匂ってきて、花の蜜に誘われた蜜蜂よろしくリアは台所に入った。台所のすぐそばにある小さな机に乗った朝食を発見すると、リアは何も考えずに椅子に座る。リアは料理人の頭を撫でる手を気持ちよさそうな表情で迎え、猫よろしく近くにあった手に頬を摺り寄せて甘えた。

リアはそんな自分の行為に気がつかないまましばらく甘えていたが、時間と共に脳が活性化してくるとぱたっとその動作を止めて、手の所有者を上目使いで見上げた。

リアの視線とロゼの視線がかち合うと、リアは今しがたしていた行動を思い浮かべて赤面した。寝ぼけていたからといって、自分が行っていたことがわからないほど脳はとろけてはいなかった。

「リアが寝ぼけるとは珍しいな」

してやったりの顔をしたロゼに言い返せるはずもなく、リアはそっぽを向き、そっぽを向いた方向においてあるものに気が付いた。リアが朝の仕事としていた水汲みをロゼがすでに済ませていた。寝ぼすけの子供の仕事を補うのも親の勤めと言っているかのように、ロゼは四の五の言わせず食事を始めた。

リアは恥ずかしさで顔を赤くしながら心中で感謝の意を述べると、ロゼに貸り一つだなと見えない貸し借り手帳に印をつけて食事を開始した。

ロゼはリアの様子を満足そうに眺め、頃合を見計らって今日の予定を口にした。ロゼが言うには、今日は日頃の疲れをとるための休日で、夜のお勤めも開店も無しということだった。リアを休ませるための口実だとリアは思ったが、鼻歌交じりで朝食の後片付けを行っているロゼを見ていると、ロゼにとっても久々の休みがまんざらではないことがリアには分かった。

リアは本当の休みなのだということを理解し、あれこれと今日の予定を考え始める。ここ数日は食事の買い物以外に外出していなかったので、習慣になっていた噴水での一時もご無沙汰になっていた。今日は日向ぼっこ日よりだからいつもの噴水で一休みしながら、人の話に耳を傾けるのもいいかもしれない。

気づかぬうちにリアまで鼻歌を歌っていた。義親が義親なら子は子。リアは知らぬ間にロゼに似て来ていると思うと少し嬉しかった。

リアは思った。ロゼはもう自分のお父さんなのだと。リアの気後れのせいで、いつまでもお父さんと呼べない状態が続くのはおかしく思えた。

リアは決心し、ロゼをちらりと見ると自分の部屋へ戻った。

 

リアの部屋は寝起きと同じ状態で、窓にかかったカーテンが部屋を薄暗くしていた。

リアがカーテンを勢いよく端に避け、窓を開けると心地よい風が部屋へ入り、雲の少ない青空からは光が射した。

日頃お世話になっている布団を窓から干し、数少ない外行きの服からお気に入りを取り出す。ここ数日は作業着ばかりだったリアにとって外行きの服は新鮮に思えて、口元が緩んだ。

服を寝台にかけ、寝台の下にある木箱を引っ張り出してお金を取り出す。ロゼが給料といって毎月少しずつリアへ金を渡しているので、金は少し溜まっていた。今までは欲しい物がなかったので使わないでいたが、今日は買いたいものがある。

いつもの感謝を込めてロゼへ物を贈りたい。

ロゼが喜ぶ顔を見るのが楽しみになって、リアはにやける顔を隠そうともせず支度をして部屋を出た。

リアはロゼに顔を見られないようにして出かけることを伝えると、思わせぶりに振り返り、ロゼさんが首を傾けのを見届けてから今日一番の笑顔を浮かべた。

「それじゃあ出かけてくるね。・・・・・・義父さん」

ロゼの驚く顔がちらりと見えたが、リアは気恥ずかしくなって家を後にした。

copyright 紙月 狐 [ namegh@hotmail.com ]