Story

#12 噴水で一人

一通り買い物を終え、リアは小物入れを胸に抱きながら噴水の縁に腰掛けていた。

リアはあれこれと思考をめぐらせ、ロゼに小物入れを渡すのは寝る直前にすることにした。リアは人を喜ばすことは好きだが、喜んでいる様を見るのは苦手だった。先ほど家を出るときにしたように渡し逃げをすることを選ぶあたり、自分らしいとリアは思った。

リアは小さな幸せにクスクスと笑う。はたから見ても幸せそうなその様子は広場の小さな幸せだった。

昼を過ぎ、陽が傾き始めたせいか広場の人の数は幾分減ったようだった。広場に人が減ったせいか広場は静かで、人の会話がよく聞こえる。

リアはぼんやりと空を眺めつつ、情報集めよろしく盗み聞きを開始した。聞いて聞いてと声高らかに話す奥様方のいる噴水は、いかにも涼しげで恰好のお喋り場であると共に情報の集合地なのだ。

人々はこう語る。先日から行方不明になっている人が増えてきた。昨日もあわせればもう十人近くになる。護衛の兵士達は何をしているのだろうか。

近頃治安の悪さが輪をかけて悪くなっているようだ。浮浪者も増え、階級の差がさらに広がったらしい。町は変わらずとも内情は変化しているようだった。

リアはまた病などが流行るのだろうかと考えると心穏やかではなかった。

リアは鼻の頭に皺を寄せるとその話をしている人々の言葉を遮断した。聞いてて気分が憂鬱になる話は聞かない方がいい。だからリアは座る場所を変更した。

すると今度はそばで男達が深刻な顔をして話をしていた。一度座ってしまったからにはすぐに立ち上がるわけにもいかず、リアは聞きたくもないのに話を聞く羽目になった。

男たちの話を要約すると、先日の夜の町に忍び込んだ奴がいるらしく、それに伴い行方不明者が増えてきている。忍び込んだ奴はいまだに捕まっておらず、門番は殺されてしまったために姿さえわからない。夜に目撃したという人がいるが、そいつは忍び込んだ奴が人間じゃないなどと噂している。きっと酒を飲んでいて幻惑でも見たんだろう。

もう気分は台無しだった。何処にいっても暗い話しか聞けないのではないか思ってリアは噴水を後にした。

帰り際にもう一度家と家との隙間を覗き、何もいないことを確認すると暗い気持ちを吹き飛ばすために、家に帰った後の事を考える。いつしか足取りは軽くなり、リアは鼻歌をもらした。何があっても今日はいい日になるはずなのだ。

copyright 紙月 狐 [ namegh@hotmail.com ]