Story

#14 不器用

祭り事はその準備が楽しく、祭り自体も楽しいものである。

リアは帰路の間中、終始想像を巡らせていた。ロゼに贈り物を渡す場面を想像し、幾数ものパターンを思い浮かべては想像を膨らます作業はとても幸せな時間だった。その様子は傍から見ても幸せそうで、リアは家に着くまで顔をにやけさせていた。見方を変えれば狂人に思われてしまうのかもしれないが、今のリアにはそんな事はどうでも良かった。

リアは終点となる我家の扉の前に立つと鼓動を高鳴らせた。準備は終わり、ついに本番に突入するわけで、いつまでもにやけていては締まるものも締まらない。リアは無理やり無表情をしてみるが、唇の端がぴくぴくと動いてしまう。どうやら無駄な努力に終わりそうだった。

深呼吸を一つして、扉の取っ手に手を添えて緊張の面差しで固まる。まるで操り人形のよろしく、ぎこちない動きでそっと扉を開けようとするのだが、体が言うことを聞いてくれない。先ほどの努力のかいあってか、にやけは大分薄らいだが、今度は顔が赤くなって顔が熱い。発汗作用が働き、妙に体が暑い。

リアは贈り物の小箱を強く抱きしめた。

リアは気負う必要などないのだと自分自身に言い聞かせ、勢いよく取っ手に力を加えて、そっと扉を開いて隙間から内の様子を探った。

夕焼け時の家は窓から入るオレンジを薄く映し、温かい空気が満たしている。扉の向こうからはおいしそうな夕食の匂いがし、それが食欲を掻き立てて腹の虫を誘う。

リアは生唾を飲み込むと、食べ物に思考を引きずられ、今まで思い巡らせていた想像が全部吹っ飛んでいってしまった。

リアは目をきょときょとさせながら家に入り、突然ロゼが現れたのでびくりと肩を震わせた。

リアは慌てて胸に抱いていた贈り物を隠そうとするが、今更隠したところで怪しいだけだということに思い当たった。そして、頭の中が真っ白になってしまい、予定を変更してロゼの所に駆け寄った。

ロゼはいつもより柔らかい雰囲気を纏いながらもリアの行動を温かな目で見守っている。全て見透かされているようで、リアは蒸気が顔から出るほど顔を真っ赤にさせた。

リアは結局なんの言葉もかけることが出来ないまま、手に持っていた贈り物をロゼに押し付けると逃げ出した。とても顔を注視できるような状態じゃなかった。

リアはそのまま自室に逃げ込み、寝台の上に大の字になって転がり、布団に顔を埋めた。様々なことがあってとても疲れた。リアは慣れないことはやるものではないなとくすりと笑う。

ロゼが贈り物を受け取ったときの表情は残念ながら見れなかったが、嫌でも次は顔を合わすことになるのだ。リアはロゼの顔を思い出すと着かなくなった。ちょうどいいものが見つからず、ライクの本が入った木箱を引っ張り出して胸に抱いた。

リアはしばらく寝台で転がり、窓の外の風景はオレンジから藍色に変わり黒に近付いていった。

部屋は暗くなり、外から入る光も弱くなる。空を見ていたリアはやがてうとうとし始め、まぶたが重くなるのを感じた。気を張り詰めていたせいか必要以上に疲れが溜まっていたらしい。リアは夕食になるまで少し眠ることにした。

copyright 紙月 狐 [ namegh@hotmail.com ]