Story

夜鳥と闇

夜鳥はさえずりながら森の上空に浮かんでいた。障害物のない空は自由に飛べたし、広い場所でさえずることは気持ちがよく、夜鳥はご機嫌だった。

夜鳥は眼下に広がる緑の海を眺めながら、さえずりの題材になりそうなものを探す。面白いものがあれば、そのことをさえずりたくなるし、いいさえずりができれば喜ばしいことだった。

夜鳥はさえずるのを一旦やめ、題材になるものを探した。空の一点に浮かびながら、眼下を観察していると、珍しい物体を見つけた。それはもやもやとした黒い闇で森の上空をふらふら飛んでいる。夜鳥は闇に興味を示し、闇の横に並ぶように高度を下げた。

近くで見た闇は雲のように掴みようがなく、球状の形を保っており、闇が通り過ぎた後には黒い糸が引いていた。

夜鳥は闇に向かって足を突っ込み、柔らかに物に足先が触れると、慌てて足を引っ込めた。闇の中には主が住んでいるようだった。

夜鳥は闇の主に興味を示し、闇のほうへ顔を近づける。

闇は夜鳥の行動をよんでいたかのように、大きくふらつきながら夜鳥を飲み込んでしまった。

闇に飲み込まれた夜鳥は混乱し、闇の主に衝突して、大混乱状態に陥った。夜鳥がじたばたと暴れると、足や羽が闇の主にぶつかった。闇の主は夜鳥の足や羽にぶつかる度に意味不明な悲鳴を漏らし、ふらふらとした軌跡を描いて飛んでいった。

夜鳥が闇の主に足や羽をぶつけたおかげか、夜鳥は闇から逃れることが出来た。闇から逃れた夜鳥はしばらく混乱状態を抜け出せずにいたが、闇から脱出したことに気がつくと目を丸くして周囲を見渡した。

闇はどこへ行ったのか。冷静さを取り戻した夜鳥が闇を探していると、森に向かって下降していく闇を見つけた。

闇はふらふらと動きながら高度を下げ、やがて一本の木にぶつかった。その瞬間ぱっと闇が散り、夜鳥には一瞬だけ闇の主の姿が見えた。赤いリボンを付けた闇の主は、ぶつかった木に飲み込まれるようにして姿を消えていった。

夜鳥はその様子を観察してから、ほっと胸を撫で下ろすと、赤いリボンを付けた闇についてさえずりながら、その場を飛び去った。

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copyright 紙月 狐 [ namegh@hotmail.com ]