Story

闇と日陰少女

陽は高く、天気は曇りから晴れへと移り変わっていた。

闇の主は空模様など知らぬまま、闇をまとってふらふらと空中をさ迷っていた。

闇の主には闇の中では何も見えないため、何かにぶつかる事も少なくはなかった。闇の主は何かにぶつかる度に悲鳴はあげるものの、すぐにいつもの調子を取り戻してふらふらと飛行を続けた。

何度も何度もぶつかるものだから、闇の主は早く夜がくればいいのにと思った。しかし、この時期の陽は中々沈まないので、しばらくは闇をまとっている必要があった。視界を閉ざされたまましばらく過ごす必要があった。

闇の主は目を閉じて耳を済ませた。視界が閉ざされているので、聞こえてくる音を目標にして飛んでいる。その行為自体が何かにぶつかる要因になっている事に、闇の主は気がついていなかった。

ふらふらと浮遊しながら目標とした音へ近づくと、闇の中に何かが入ってきた。

闇の主が瞬きをすると、目の前には白い少女の顔が浮かんでいた。闇の主が日陰少女に驚いて口をパクパク動かしていると、日陰少女は闇の主の頬を軽く引っ張りながら、このまま真っ直ぐ飛ぶように指示をした。

闇の主は日陰少女の悪びれもない指示の仕方に、一瞬従いそうになったが、違和を感じて日陰少女の眠たげな眼を見つめた。

日陰少女は無気力な表情のまま闇の主を見つめ返し、指示に従ったらお菓子をあげると口にした。闇の主はお菓子を想像してくぅくぅと腹の虫を鳴かせてから頷くと、日陰少女の指示に従って飛んだ。

目的地へ向かう途中、闇の中へ入ってきた理由を日陰少女に訊ねると、日陰少女は天候が変わったからと答えた。曇りの日を選んで出かけたのに、陽が出てきて困まっていた。その時に闇が現れたので入れてもらった。闇の主は日陰少女の応えに親近感を覚え、指示に従う事にした。

日陰少女の指示は適切だった。闇の主が方向を間違えれば、日陰少女が正しい方向を示す。闇の主は日陰少女が闇の中でも周囲が見えているものだと思い、素直に感心した。

日陰少女の指示に従って飛び続けると、やがて大きな屋敷についた。目をまん丸にして驚いている闇の主を連れ立って、日陰少女は自室へ向かった。

日陰少女の自室は大図書館だった。数多の本が棚に納まり、収まりきらない本が山のように積んであった。本など読まない闇の主は大量の本を目の前にして頭が痛くなり、日陰少女は闇の主に気がつかない様子で丸机の脇にある椅子に座った。

頭を押さえつつ、日陰少女に習うように闇の主が椅子に座ると、メイドがお菓子を運んできた。おいしそうな臭いに闇の主はくぅくぅと腹を鳴らし、その様子に日陰少女が微かに目を細めた。

机に並べられたのは紅茶とクッキーだった。

どれもおいしそうだったが、見た目が赤かった。

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copyright 紙月 狐 [ namegh@hotmail.com ]